料理手帖

鞍谷 浩史

京都芽生会(京料理の若手料理人の会)の仲間から求人を紹介されて、京都のたん熊北店で受入コーディネーターの恒光さんと会ったことが始まり。隠岐の場所もわからないくらいで、まずは現地を見に行ってみることにしました。もっと田舎と思ってたけど、行ってみたら意外に町っぽくもある。でも住んでみたら、やっぱり田舎でした(笑) 訪問したドイツ人農家からもらったパプリカを、イタリア料理屋さんにお願いして、ディナーに入れてもらった思い出もあります。東京などの料理店への就職という他の選択肢もありましたが、「食材が制限された中で、どういうものが作れるのか」という環境が、今後の料理人生活の中における自分自身の学びになると考え、島食の寺子屋常勤講師になることを選びました。

市場には出回らない規格外のもので調理をしたり、都会にいれば触れないような新鮮な状態の魚を使って、実践授業の中でお客様に料理をお出しできるのは、料理人として恵まれている環境です。また、自ら山に入れば山菜が獲れ、海に入れば海藻もとれ、畑に入れば野菜を分けてもらえる。そして、自分たちで育てた野菜で、料理をしてみることもできる。色々な自然の食材と出会い、それぞれの食材の味を覚えることで、料理人としての舌の基礎ができていくと思います。

周りになにもないので、料理に集中できる環境ですね(笑) 食材の現場も近いことですし、島民の方と仲良くなれば食材も分けてもらえる。授業が終わってから自習の時間もある。その時間をどのように使うかは自分次第。そして、やればやるだけ上手くなる。入塾当初になんの知識もなく作った料理と、まったく同じ料理を一年後に作ってほしいですね。一年の間に、包丁の使い方から食材の扱い方、調理法もまるっきり変わっていくと思うんですよね。

離島キッチン海士では、お品書きが毎日変わります。その時々にある食材を使い、「ないものはない」中で、今ある食材でどうするか?料理に対して考える力がついていくことによって、料理のバリエーションは増える。バリエーションが増えれば、本土に戻って全ての食材が揃った時に、料理でもっと色んな組み合わせを発想できると思います。


講師として教えるということが初めてだったんで、自分の感覚を数値化していくという数年でしたね。教えるためには、いま数値とかデータで教えないといけない部分もあって、数値化するべきところが定まりつつあります。ただ、お店によってですけど、油の温度を測る温度計がないとか、出汁をとるときに温度計がないっていうお店も少なからずあるので。常に温度計をさしてできたらええけど、ない時はどうするのかというところは感覚的というか、見た目とかで判断しないといけないところもあって。そういう時に必要な知識は教えるようにしています。実践授業で離島キッチン海士で料理をするときは、自分が調理の面でなるべく生徒に手を貸し過ぎないようにしています。なるべく生徒に触ってもらう、料理を作ってもらうというのは意識しているところで。

食材には、走り・旬・名残があって。それは畑でも一緒で。収穫が始まるときと、最盛期のときと、終わりかけのときとでは、食材が全然変わってくる。それぞれのタイミングで、どのような味がするのかというのを覚えてもらいつつ。じゃあ、こういう味になってきたとか、皮が厚くなってきたとか、によって料理法が変わってくるので、そういうのを見極めていってもらいたいなと思います。

<基礎>

基礎技術は、まずは包丁に慣れて、研ぐところから桂剥きまで。桂剥きは初心者には難易度が高いけど、それを難しいからできひんじゃなくて、やってもらいながら習得してもらいます。野菜に特化した薄刃包丁についてだと、特に刻むという行程というか作業を重点的にやっていきます。基本的な包丁の握り方、動かし方、体勢とかを学んでもらったりとか。魚に関しては、出刃包丁の特性と使い方。魚まるまる一匹内臓がついている、うろこがついている、えらがついているという状態を見てもらって、まずはこの魚がなんという魚なのかとか。魚を種類とか分かるようになってもらってから、血がいっぱい出てびっくりするかもしれんけど、それを実際に自分たちで水洗いから三枚おろしまでして、実際にお造りにしたり焼いたり揚げたりして、お客さまに召し上がってもらう。味を覚えてもらいながら、技術も覚えておいてもらう。包丁以外の基礎だと盛付のところで、賄いみたいなものを何回かしながら教えていけたらなと。

<実践>

会席料理を想定してだと、自分たちが切ったものを桂剥きして刻んだり、魚を三枚おろしにして切ったものがお客様の口に運んでもらえるレベルに達しているかどうかを判断します。レベルに達していなければ、残念だけどこっちでやってしまうこともあるし、その辺は最低限までのレベルまではレベルを上げてもらいます。はじかれないような技術をいかに習得するかは、基礎技術の反復練習の部分になってくるので、基礎技術のところはちゃんとやってもらいたいなと。実際に火を使うときやったら、「この状態やったら焼けている」とか、油がこうなったら食材を入れて天麩羅にできるでとか、というのはやり方とかタイミングを実際にやりながら覚えてもらいながら、本番に繋げてほしいなと思います。

働き始めるときの、理解度が深くなります。包丁も基礎的なところは技術をつけさせるし。仕事になると、「やらされる」のと、「自らやる」のとでは大きな違いがあって。やらされると嫌になるところがあるけど。最初なにもわからん状態から入ると、やらされ仕事になってしまうけど、基礎的な知識とかをもってお店に入ると、「自分がやっている」になるんじゃないかと。生徒たちも言っていたけど、4月の大根桂剥きを嫌々やるのと、各々がなにか今日はどういう意識をもってやるのかで、全然成長が変わってくるので。メニューを考えることも同じで。こちらから与えたものを作るだけでは、それこそ「やらされている」になっちゃう。自分から考えたメニューやったら、自分が作りたいって考えたメニューやから、楽しく前向きにできるというか。そこで、メニューは考えてこういうやり方でやってみたけど、なんか違うという時にはもちろんアドバイスはするし、質問には答えるし。それはメニューだけじゃなくて、今やっていることに対して、「これ今、こうやっているけど、自分やったらこういう風にやった方が早いかな」とか、考える力になるし。日々のことを無心にするのもありやけど、どうやったら綺麗に切れるやろかとか、を考えるのは力になるし。もちろん、こっちから指導もするけど、生徒たちの方でもただやるだけじゃなくて、「考えながらする」ということは常に意識して実行に移してほしいですね。

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